<その1 どんぐり上人様のほこら>
その日、おじいさんが、役場に出かけるのについてこないかと誘われる。おじいさんに、昨日の女の子にはどこに行ったら会えるか聞いてみると、村の人に聞いて見ろと言われる。なんの用事か聞くと、夏祭りの打ち合わせに行くのだという。そして二人はスクーターに乗って役場へと向かった。途中の橋で、釣り竿を手にした『辰夫』と言う人物に出会う。彼に挨拶をし、話をすると、彼は川漁師なのだという。知っているか、と言われるので、知らないと答えると詳しく教えてくれる。おじいさんに話をすると、女の子のことを聞いてみてはと言われる。そこで早速聞いてみるが、情報が少なくて、分からないと言われる。困っておじいさんに尋ねると、何か持ってなかったかと言われる。そこで、浴衣の切れ端を見せて聞いてみるが、やはり分からないと言われる。おじいさんと話し、もう特に話すことは無いと思い、辰夫にお礼を言う。辰夫は去り際に、おじいさんと『カマイタチ』について話をする。昨日も姿を見せたらしい。
辰夫が去った後、『カマイタチ』について聞くと、小さな竜巻のようなものだという。そのうち、辰夫が川で釣りを始める。おじいさんに対してカマイタチに会って正体を確かめてみたいと言うと、いつどこに現れるのか分からないと言われる。そこで、辰夫にどこでカマイタチにあったか聞いてみると、ほこらの方に登っていくのを見たという。おじいさんにほこらについて聞くと、それはどんぐり上人様のほこらだろうと言う。上人様とは偉い坊さんのことで、どんぐり上人はこの村を救った大恩人で主人公の先祖なんだという。主人公がそのほこらに行ってみたいと頼むと、おじいさんは快く引き受け、二人はほこらへと向かった。
ほこらへ向かう途中の道で、おじいさんは一旦スクーターをとめ、山の方を指さす。その先に、ほこらがあるのだという。カマイタチにすぐ出会えるか聞いてみるが、分からないと言われる。ほこらの方を見ると、その下に広場があるのが分かる。広場を見ると、何か材木のような物が置いてあるのが分かる。おじいさんに聞くと、あれは祭りの材料だという。また、この『どんぐり祭り』では夜に花火があがるという。その『どんぐり祭り』という名前に対し、主人公が尋ねると、この夏祭りはどんぐり上人様が山の神様のところからもどった記念の祭りなのだという。その話に、主人公は何か聞き覚えがあるように感じる。主人公はおじいさんにほこらに行きたいと告げ、彼らはほこらへと向かった。
ほこらに行くと、そこには一人の子供がスイカを食べている。見ると、何か赤い袋を持っている。しかし、話しかけようとするとその子供は逃げていってしまう。周りを見ると、目の前にほこらがある。ほこらを見た後、おじいさんに話しかけて中に何が入っているかを聞くと、中には『ならび地蔵』が入っているという。扉を見ると、いくらか中が覗けそうである。そこで中を見てみるが、薄暗くて見えない。おじいさんにそのことを告げると、今日は鍵がかかっているだろうから、そこまでだと言われる。しかし、扉を見てみても錠前は見つからない。思い切って扉を開けてみると、あっさりと開いてしまう。おじいさんに入ってもいいか尋ねると、せっかくだから中を見てみようと言われる。そして二人はほこらの中へと入っていった。
中に入ってみると、二体の地蔵がある。見てみるが地蔵があるだけでとくに他に変わったものはない。しかし、おじいさんは首を傾げている。おじいさんに尋ねると、前見たときと何か違っている気がするという。主人公が、さっきの子供の持っていた赤い袋が怪しいと言うが、おじいさんはあんな目立つものでは無いという。地蔵を見ると、女の地蔵の方が何か変なポーズ取っているのが分かる。おじいさんにこれがどんぐり上人様なのかと尋ねると、男の方がどんぐり上人様、女の方があや紫様なんだという。女の地蔵のポーズについて聞いてみるが、おじいさんもよく分からないと言う。
どんぐり上人様について聞くと、地蔵の顔が主人公の顔に似ていると言われる。また、おじいさんは養子で、主人公の方がどんぐり上人の直系の子孫なのだと言われる。あや紫様について聞くと、この女性は上人と一緒に山の神様のところまで旅をしたあやかしの姫なのだという。あやかしについて聞くと、あやかしとは森の中にすむ人間ではない人たちのことだという。それは妖怪のようなものかと聞くと、妖怪よりも親しみのある存在なのだという。さらにあやかしについて聞こうとすると、村のおイネさんなら言い伝えなども知っていると言われる。言い伝えについて尋ねると、おじいさんは簡単に説明をしてくれる。
その話を聞いて、主人公はほこらのまわりに森なんて無いと声を上げる。それに対して、おじいさんは今はなくなってしまったと答える。そしてその理由を説明するため、一旦表に出ることになる。外に出ると、そこには切り株がたくさんあった。おじいさんの話では、数年前までは古い木がたくさんあったのだが、町の方の大きな建設会社の人が、この村の木を買いたいと大金を持ってきた。それに対し、貧乏だった村の人はいったんは了承したが、建設会社が欲しがったのはどんぐりの森の木だった。それを知って、村人は断ろうとしたが、契約書などの関係で、あっという間に木は切り倒されてしまったらしい。そして、そのあと、ここにはいっこうに木が生えてこないのだという。
ここまで話し、おじいさんは時間を食いすぎたことに気づき、二人は役場へと向かった。
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